皆さん、ハンス・リヒター・ハーザーというピアニストをご存知ですか?
1960年ごろ活躍したドイツのピアニストです。
私が学生の頃購入したレコードで、曲目はベートーベンのピアノ協奏曲・第3番、第4番。指揮はカルロ・マリア・ジュリーニ(第3番)、イシュトバン・ケルテス(第4番)、オーケストラはフィルハーモニアという盤があります。
ソリストはドイツ、指揮者はイタリア、オケはイギリスという混成部隊のベートーベンです。
アナログターンテーブルを数年ぶりにメンテナンスした(ハウリングマージンの調整)ついでに、昔のレコードを聞き直してみたくなり、久しぶりに上記のレコード(第3番)を聴きなおして改めてこのピアニストの偉大さに感激しました。
今やこのような演奏は聞けなくなった。
ベートーベンのピアノ協奏曲第3番と言えば名曲中の名曲で、レコード・CDは数多あり、例えば「名曲名盤500、ベストディスクはこれだ!」(音楽の友社刊2017年)を見ても、ポリーニをはじめ有名どころが、ずらーっと並んでいます。
しかし、ハンス・リヒター・ハーザーの名前はありません。
ハンス・リヒター・ハーザーは、これに限ったことではなく他のディスク評などにもほとんど名前は登場しません。
特に日本では、全く無名と言っても良いでしょう。
これは、生涯録音されたディスクの少なさも影響していると思います。
しかし、実に雄大で明確な演奏をします。
美しさよりも精神性が際立った演奏
リヒター・ハーザーの第3番は、例えるなら重戦車が向かってくるような緊張感があります。バックハウスの演奏も同様な演奏ですが、バックハウスのほうが「きれい」です。リヒターハーザーのピアノは実はテクニック的には劣ると思うのです。(トリルなどはきれいに転がっていない)
しかし、実に骨太で明瞭な演奏をします。かといって「無骨」や「即物的」な演奏ではありません。時に華麗で、時には内省的でさえあります。
「緊張感のある演奏」とは、テクニックばかりではなく演奏表現がどうあるべきかを、ソリストも指揮者もオーケストラも全てが、1点もゆるがせにしない姿勢がみなぎっているからできる演奏だと思うのです。
演奏が進むにつれ、テクニックよりも演奏表現そのものの偉大さに胸が熱くなってきます。
ジュリーニとフィルハーモニアの演奏がこれまた非常に重厚で、リヒター・ハーザーのピアノをしっかり支えています。
いまや、こんなにも精神的に緊張感のある演奏は聞けなくなりました。
安定した演奏で曲にどっぷり浸かりたいならクラウディオ・アラウのような演奏があると思いますが、「ベートーベンを聞きたい」というような時には、リヒター・ハーザーをぜひ聞いてみて下さい。
3か国混成部隊と言いましたが、出てくる演奏は実に伝統的なドイツ音楽です。
少ないながら、CDでも購入できるようです。
私のは東芝EMI「SERAPHIM」EAC-30064という品番のアナログレコードです。
ピアノとオケの録音バランスも非常によく、ダイレクトで重厚な音が飛び出してきます。
保存状態も良くしているので、私の宝物レコードです。